乳房エピテーゼは心の支えになる?海外研究から見えてきた外見ケアの大切さ

乳がんの手術を受けたあと、胸の左右差や洋服を着たときのシルエットの変化に戸惑う方は少なくありません。
その戸惑いは、見た目だけではなく、人前に出ることへの不安やこれまで通りの生活を送りたいという気持ちにも影響することがあります。
乳房エピテーゼは、そのような外見の変化を補うための選択肢の一つです。
しかし、見た目を整えることが本当に心の支えにつながるのでしょうか。
今回は、海外で行われた乳房エピテーゼに関する研究をもとに、
- 外見のケアが自分らしさや生活の質(QOL)にどのような影響を与えるのか
- エピテーゼを使う女性たちは何を感じていたのか
- 試着や情報提供がなぜ重要なのか
についてご紹介します。
海外で行われた研究について

今回ご紹介するのは、2003年に学術誌 Cancer Nursing に掲載された質的研究(※)です。
External breast prosthesis use: experiences and views of women with breast cancer, breast care nurses, and prosthesis fitters
(乳房切除後に乳房エピテーゼを使用する女性、乳がんケアの看護師、乳房エピテーゼの製作・フィッティングを行う専門家の経験に関する研究)
(※)質的研究とは、アンケートの点数やグラフだけを見るのではなく、インタビューや会話の内容をていねいに読み解いて、「人が何を感じているのか」「どんなことを大事にしているのか」を探る研究のことです 。
この研究では、乳房切除後に乳房エピテーゼを使用している女性と、乳がんケアの看護師、乳房エピテーゼの製作、フィッティングを行う専門家を対象に、グループインタビューが実施されました。
なお、この研究で扱われている「External Breast Prosthesis」は、日本では「乳房エピテーゼ」「人工乳房」「外部乳房プロテーゼ」などと呼ばれるものにあたります。
この記事では、一般的に「乳房エピテーゼ」という名称でご紹介します。
研究では、参加者が実際に体験したことや感じたことをもとに、共通するテーマが整理されています。
最初から前向きになれる人ばかりではない

研究の中で、多くの女性が語っていたのは、乳房エピテーゼとの最初の出会いは決して前向きなものではなかったということです。
参加者の中には、
「胸を失ったことを改めて実感した」
「人工物を身につけることに抵抗があった」
という思いを抱いた方もいました。
研究では、このような反応は決して特別なものではなく、多くの女性に見られる自然な感情であると考察されています。
無理に前向きになろうとする必要はなく、自分のペースで受け入れていくことが大切だと示されています。
時間とともに変わる自分らしさの受け止め方

一方で、エピテーゼを使い続ける中で、気持ちが少しずつ変化していったという声も多く見られました。
研究では、
- 洋服のシルエットが自然になった
- 外出しやすくなった
- 人前でも以前より安心して過ごせるようになった
といった経験が語られています。
参加者の中には、「以前より自然に生活できるようになった」と感じる方もおり、エピテーゼが単なる外見を補う道具ではなく、日常生活を支える存在になっていく過程が示されています。
研究では、適切な乳房エピテーゼの提供は、日常生活や生活の質(QOL)の向上、感情的な苦痛の軽減につながる可能性があるとまとめられています。
心の支えにつながる3つの要素

研究では、乳房エピテーゼそのものだけではなく、「どのような支援を受けられるか」が満足度に大きく関係していることも分かりました。
十分な情報があること
参加者は、
- どんな種類があるのか
- どこで入手できるのか
- 費用はどれくらいか
といった情報を十分に得られることで、不安が軽減されたと話しています。
反対に、情報が少ないと、「自分には選択肢がない」と感じてしまうこともありました。
試着や相談の時間
研究では、フィッティングの場の雰囲気も重要な要素として挙げられています。
プライバシーが守られ、安心して相談できる環境であること。
そして、専門家が話を丁寧に聞き、一人ひとりの希望を尊重してくれること。
こうした体験が、エピテーゼへの満足度や安心感につながっていました。
医療者との連携
乳がんケアの看護師が外見の悩みにも耳を傾け、エピテーゼの専門家と連携しながら支援することも重要だと報告されています。
治療だけでなく、その後の生活まで見据えたサポートが、安心感につながると考えられています。
外見を整えることが心を整えることにもつながる

乳房エピテーゼは乳房そのものを取り戻すものではありません。
しかし研究では、
- 左右差が気になりにくくなる
- 好きな洋服を選びやすくなる
- 人前で過ごすことへの不安が軽くなる
といった変化を経験した参加者が多くいました。
外見が整うことで、自分らしい生活を少しずつ取り戻していく。
その積み重ねが、生活の質(QOL)や術後の気持ちにも良い影響を与える可能性があることが、この研究から示されています。
課題は?

もちろん、乳房エピテーゼですべての悩みが解決するわけではありません。
研究では、
- 重さやフィット感
- 夏場の暑さや蒸れ
- 費用
- 情報不足
などの課題も挙げられています。
だからこそ、「どんなエピテーゼでも良い」のではなく、自分に合った形や重さ、そして安心して相談できる環境を選ぶことが大切だと考えられています。
Ivy Creation Labが大切にしていること

この研究を読んで改めて感じたのは、乳房エピテーゼは「形を補うもの」ではなく、「安心して毎日を過ごすための選択肢」の一つなのだということです。
アイビークリエーションラボでは、一人ひとりのお身体に合わせて形・色・質感を調整しながら、オーダーメイドの乳房エピテーゼを製作しています。
また、フィッティングはサイズを合わせるだけの時間ではなく、外見のお悩みやこれからの生活についてゆっくりお話しいただける時間でもあります。
研究でも、フィッティングの体験そのものが安心感につながることが示されていました。
私たちも、「前向きにならなければ」と急ぐ必要はないと考えています。
今のお気持ちや生活に合わせながら、「今の自分にとって一番心地よい選択」を一緒に見つけていけたらと思います。
もし乳房エピテーゼについて知りたいことや不安なことがあれば、どうぞお気軽にご相談ください。
参考文献
Roberts S, Livingston PM, White V, Gibbs A. External breast prosthesis use: experiences and views of women with breast cancer, breast care nurses, and prosthesis fitters. Cancer Nursing. 2003;26(3):179-186.
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